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細菌と生体防御反応について(細菌感染症を考えるうえで) |
初めてオランダ人が、手製のレンズで作った顕微鏡で細菌を見たのが300年前のことです。 それから150年後、コッホが数々の病原細菌を発見しています。 口腔内に定着する細菌の種類は、およそ500〜700種類いるとされています。 口腔の2大疾患であるう蝕と歯周病の原因は、デンタルプラーク(歯垢)です。 これを顕微鏡でのぞくとそこには、数多くの細菌が観察されます。 無菌のラットには、う蝕が生じない等の研究(1955年)から、う蝕が細菌による感染症であることが 明らかになり、プラーク細菌と歯周病との関係も、嫌気培養技術の進歩によって明らかになりました。
ところで、人間は数々の感染症と絶えず戦っています。 生体は、その恒常性を維持する為に様々な生理機能を備えています。自分と違う異物進入に対して、 恒常性の維持(ホメオスタシス)を乱すものとして認識し排除しようとする一連の生体防御反応が免疫です。 微生物の世界や生体の防御反応を理解するのは、未だ解明されていないことも多々あるので難しい のですが、おおまかにいって、皮膚と粘膜の構造、そして、それらの分泌物やそこに定着している 常在菌、白血球などの働きによるものです。 これらが、うまく絡み合って網の目ももらさない仕組みになっているのには驚きます。しかも、 特定の微生物を識別して殺す仕組みは、時として過剰反応(アレルギー)を起こしますが、 とてもすばらしいです。
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ヒトと微生物の関係(免疫) |
ヒト(宿主)は、微生物(細菌など)からどの様に身を守っているのでしょうか。 ヒトは、微生物から身を守る免疫という仕組みを体の中に持っています。 免疫とは、病原体や毒素、外来の異物、自己の体内に生じた不要成分に対して排除しようとする 生体防御のメカニズムです。 私たちを取り囲む環境には、さまざまな微生物が存在していて、それらの進入を絶えず受けています。 しかし、私たちは、先天的に持っている自然免疫や生後身に付けた獲得免疫のおかげで、 2重3重の防波堤があり簡単にその進入を許さ様になっています。
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最初の防波堤は、自然免疫系です。 |
自然免疫系は、先天的に備わった免疫機能です。 非特異的(外来物すべてに対して)な生体防御を司っています。
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【物理的に進入を阻止する】 |
皮膚や粘膜は、細胞同士の結合が密であり外部から体内に侵入しようとすると、皮膚の角質層などは ケラチンというタンパクでできていて、進入を防いでいます。 |
【抗菌性物質による阻止する】 |
皮膚の汗腺や皮脂腺よりの分泌物には、殺菌作用のある脂肪酸が含まれています。 唾液や涙、鼻汁には、リゾチームという酵素が含まれていて抗菌作用があります。 そのほか唾液中には、多くの抗菌性物質が含まれています。 多くの感染微生物は、増殖に鉄を必要としますが、ラクトフェリンは、涙、唾液、母乳などに 含まれていて遊離鉄と結合するので、感染微生物の増殖を抑制してます。 胃液には、塩酸やタンパクを分解するペプシンが含まれているので多くの感染微生物を殺します。 ムチンを主体とする粘液は、粘膜を覆い感染微生物が直接粘膜の上皮と接触するのを妨げています。 粘膜には、すでに数多くの常在菌が細菌叢を形成していて進入微生物は、これらの常在菌と 栄養物の競合や常在菌の産生する殺菌物質で排除されます。
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次なる防波堤は、細胞性防御因子による阻止です。 |
自然免疫系のレセプターを持つ細胞は、感染微生物を即座に感知してそのシグナルを細胞内に 送ることによって、活性化され迅速に感染微生物を貪食します。 人の血液の中には、ご存知のように赤血球のほかに白血球という血球が流れています。 この白血球のなかには、好中球や単球といった生体防御をしている血球があります。 好中球は、全白血球の70%を占め、食作用をもち感染微生物を貪食します。 好中球は、食作用によって感染微生物をとらえて分解しますが、数時間後には自らも死滅して 膿になります。 マクロファージは、組織中に定着して食作用を営む細胞ですが、元々は、 血中を循環しながら食細胞として機能している単球が血管より遊走して出て来たものです。 NK(ナチュラルキラー)細胞(大型顆粒リンパ球)は、自然免疫の主要因子として働き、常に体内を 巡回しがん細胞やウィルス感染細胞などを見つけると指令なしにそれらを攻撃し破壊します。 特に、抗腫瘍効果には抜群の威力を発揮します。
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さらなる防波堤は、自然免疫系から獲得免疫系へと移ります。 |
自然免疫系でカバーしきれないもの、それは血液中に流れている毒素分子や小さな病原体、細胞の 中に入り込んだ病原体などです。 マクロファージが異物侵入のサインを、ヘルパーT細胞(胸腺由来のリンパ球)に発します。このとき 樹状細胞が、抗原をT細胞(Tリンパ球)が認識できるようT細胞内に情報を伝達し、自然免疫系と 獲得免疫系との橋渡しをします。 ヘルパーT細胞の指令により、キラーT細胞、B細胞(骨髄由来のリンパ球)などが細菌や異物を攻撃 殺傷します。B細胞は、大量に抗体を産生して一部のB細胞などに攻撃対象の記憶が残り免疫を 獲得します。 抗体は、溶けて流れている異物分子でも攻撃できます。
この様な生体防御機構により人は、守られているのです。しかし、不規則な生活をしていると抵抗力 がさがり細菌の進入を許してしまいます。疲労が溜まり体の本来の恒常性維持が衰えてしまうのでは ないでしょうか。 血液中で最も多い免疫グロブリン(抗体)であるIgGの主な働きは、毒物やウィルスに結びついて無毒 化することと、白血球の食菌・殺菌作用を助けることです。 抗体(IgG)は、胎盤を通して母親からその子供に受け継がれます。受け継いだ抗体は、生後3ヶ月から 6ヶ月で消失してしまいますが、その間新生児は母親からお守りとしての防御抗体を受け取るため、 特定の微生物に対して抵抗性を示すことができます。 人は、赤ちゃんの時から免疫の恩恵にあずかっているのですね。 |
口腔内細菌叢(口腔フローラ)の成り立ち |
虫歯や歯周病は、口腔内常在菌による内因感染です。症状が穏やかで発症までに時間がかかるので 生活習慣病という側面もありますが、細菌の存在がなければ発症しないことと、感染のときに起こる様々 な生体反応が関わっているので、明らかに微生物による感染症といえます。
口腔内常在菌は、通常は口腔清掃が良好であり歯肉も健全な場合、宿主と微生物の間には、均衡の とれた1つの生態系ができあがっていて、解剖学的環境の違いにおけるいくつかの正常フローラ(細菌叢) を形成しています。舌背や頬粘膜、唾液中、歯面、歯肉溝は、それぞれを生息部位とするフローラをもって います。
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口腔内細菌叢の形成過程を経時的変化でみると |
無菌であった胎児の口腔は、出産時産道フローラ(細菌叢)からLactobacillus(乳酸桿菌)などの汚染 を受けます。 産道で受けるLactobacillus は、出世時には40%を超える新生児が保有しますが、 24時間後にはたった2%の新生児からしか検出されなくなります。 その後、家族や介護者の唾液や皮膚のフローラから持続的な汚染を受け、口腔の生態系に適合した 菌のみが定住菌となります。しかし、口腔環境に付着能を持たない大部分の菌は定住菌となることは ありません。 新生児の口腔に最初に定着する菌は、先駆細菌と呼ばれ唾液フローラの中心的細菌である 唾液レンサ球菌や皮膚フローラのStaphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)などがあります。 Streptococcus salivarius(ストレプトコッカス・サリバリウス)は、生後1ヶ月程度でほとんどすべての新生児に 見られるようになります。口腔内に持ち込まれた細菌がすべて定着するわけではなく、次第に 質的、量的に変化していきます。歯の崩出は、口腔内環境に大きな変化を与えます。 歯の硬組織に最初に定着するのは、口腔レンサ球菌のStreptococcus sanguinis (ストレプトコッカス・サングイニイス)あるいは、Streptococcus gordonii(ストレプトコッカス・ゴルドニイ) あるいは、 Streptococcus oralis(ストレプトコッカス・オラーリス)で、続いて糸状菌や嫌気生菌などが加わります。 こうして、口腔内細菌の棲み分けが行われます。 正常フローラの存在は、他の病原微生物の宿主への感染を妨げ、宿主の健康維持に役立っています。 しかしながら、口腔清掃が不良であったり宿主側の全身疾患などによる抵抗力の低下などにより 均衡がくずれた結果、口腔フローラの感染によるに病的変化が虫歯や歯周病という形で現れます。 よって数多くの常在菌のなかにそれらの原因となる病原性を持った菌がいるわけですが、1細菌のみで 発症するわけではなく複数の菌が関与する混合感染の形をとります。 しかし、特に病原性の高い菌が主な原因菌であることは間違いありません。
インフルエンザの流行時に、うがいや手洗いを良くしたことを思い出します。 これは、付着した菌を取り除くために他なりません。 菌を体の中に入れないように一生懸命になったものです。 このことは細菌感染症である虫歯や歯周病にも、同じことが言えるのではないでしょうか。 虫歯や歯周病は、毎日が流行時と考えてください。歯周病は、成人の約80%が罹っている病気です。 これを流行といわなくてなんと言うのでしょう。細菌に対する知識を得、対処法を考えましょう。
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デンタルプラーク(歯垢)の形成 |
歯面におけるフローラは、その解剖学的な特徴により明らかに歯肉縁上(歯肉辺縁より上)の歯面と、 歯肉縁下(歯肉辺縁より下)の歯面つまり歯肉溝内の歯面に分けられます。 歯肉溝は、歯と歯肉の境目にある深さ1〜3mmの溝です。 歯肉縁上歯垢は、好気性菌や通性嫌気性菌が多くう蝕や歯肉炎に関係することが多いです。 歯肉縁下歯垢は、偏性嫌気性菌が主であり、歯肉炎や歯周炎に関係することが多いです。 初期のプラークは、歯の表面にある唾液タンパクの薄い膜(ペリクルといいます)に付着して デンタルプラークは形成されます。 ペリクルは、歯を保護する機能を持っていますが、時にペリクルは細菌の付着をも誘導して しまいます。 ペリクルの特定成分は、細菌のレセプター(受容器)となり、そこに合う付着因子 をもった細菌が誘導され強固に付着します。 さらに細菌は、スクロース(蔗糖)を分解して粘着性の不溶性グルカンを作り、プラークに粘稠性 を与え細菌の付着をさらに容易にします。 ここまでは、8時間位の時間を要し、集落形成期と呼ぶことが出来きます。 集落形成期の段階では、検出される割合として高いのが通性嫌気性菌のグラム陽性の レンサ球菌群です。
付着して8〜48時間位で、爆発的に増えるプラーク急成長期となります。 特定の菌種間同士がくっ付き合い、共凝集し密度を上げて厚みを増していきます。 この時期には、グラム陽性桿菌が増えてきます。 プラークコントロールしない状態で放置しておくと3日から5日で成熟プラークとなります。 成熟プラークでは、嫌気性菌の割合がだんだん高くなります。 こうして出来たプラークは、微生物が層状にマトリックス(ここではプラークの塊)の中に 埋まっている状態です。(時間や日数は、口腔内の状況や個体差で違いが有ります。)
マトリックスは微生物間の間を埋め、プラーク全容量の約30%を占める様になります。 マトリックスは、プラークを強固に連結する粘着性を付与し、プラーク内部を外界からバリアー として保護すると共に、プラークの中の物質が外界へ拡散することを妨げています。 このことは、唾液による生体防御作用を弱めているものと思われます。この様に、 歯面への定着を果たした口腔内細菌は、増殖し細菌同士がくっ付き合いバイオフィルム という構造(ぬるぬるした塊)を取る様になります。
これはまさに、デンタルプラークとバイオフィルムは、同じと言ってよいと思われます。 バイオフィルム形成物質(ぬるぬる)は、多糖体であり非自己として認識されにくく、 免疫機構は、バイオフィルムを外来物の細菌として攻撃しません。 バイオフィルム排除に作用するような抗体は産生されないし、バイオフィルムそのものは、 免疫反応で出てきた食細胞が食菌して殺菌することはできません。防御反応が働きません。 抗菌物質や抗菌薬剤は、浮遊菌に対しては有効であってもバイオフィルムに浸透することは 出来ないので、浅い表面の細菌は死ぬかもしれませんが、中では細菌同士コミュニティ-を作り お互いに産生物を利用し合いながら生活することができます。 そして、酸素勾配ができて中心部では偏性嫌気生菌でも生きられる様になります。
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プラークの石灰化と歯石形成 |
デンタルプラークは、2,3日で石灰化し始めます。プラークが石灰化すると歯石になります。歯石は、 形成される位置により歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石に分けられ、その由来や組成も異なります。 プラーク中に存在するリン酸カルシウム沈殿阻害物質である唾液タンパク(スタセリン、PRP)は、細菌の 産生するタンパク分解酵素で、阻害作用を発揮できなくなっていて歯石の石灰化を促進しています。 その結果プラークの中でのリン酸カルシウムの沈殿が細菌の細胞壁成分を核として起こり、 歯肉縁上歯石が形成されます。 歯肉縁下歯石の場合、歯肉溝浸出液が唾液の代わりになり歯石形成のための材料を供給しています。 歯肉縁下歯石は歯肉縁下プラークから作られ、先に形成される歯肉縁上歯石とは、その過程は必ず しも関連していません。
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歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石の比較を見てみましょう。 |
【歯肉縁上歯石】 【歯肉縁下歯石】 [ 成分 ] 主としてプラーク由来の細菌体と 炎症反応の生ずるアルカリフォスファターゼ マトリックス成分が石灰化したもので の作用によりポケット内成分が石灰化 細菌体性歯石とよばれる したもの [ 由来 ] 唾液 血清成分などの歯肉溝浸出液 [ 沈着量] 多い 少ない [ 構造 ] 層状 無構造 [ 色調 ] 白色または淡黄色 暗褐色または暗緑色 [ 硬度 ] 比較的もろい 硬い [ 除去 ] エナメル質に付着するため接着が セメント質に付着するため接着性が 比較的弱く剥離が容易 強く剥離が困難 以上の様な違いがあります。特に色の違いは特徴的です。
定期的なメインテナンスを受けている方ほど口腔内の環境は良く保たれ、その結果、口腔内細菌が 臓器への悪影響をもたらすことによって生じる全身疾患に対するリスクを、回避することにつながっ ていると言えます。
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口腔内細菌を見てみると |
口腔内に定着する細菌の種類は、500〜700種類いるとされています。しかし、 近年の細菌の同定方法の急速な進歩によって、今後より詳しい解析結果が出てくるものと思われます。 細菌は、原生生物に属する単細胞生物であり、大きさは0.5ミクロン位から、大きいもので長さ100ミクロン、 幅2〜3ミクロン位であり、光学顕微鏡で見ることができます。 球状のものを球菌、細長いものを桿菌、らせん状のものをラセン菌などと分けられます。 1細菌1ミクロンの大きさとして、1ミリの長さに1000個並びます。1ミリ四方に1000000個? 1ミリ立方の中に1000*1000*1000個いる可能性があります。10億?でも少なくても 1億以上はいると思われます。
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グラム陽性菌とグラム陰性菌について |
細菌は、グラム染色に対して共通の構造を持っていて、どちらかに分かれます。 グラム陽性菌は紫に、グラム陰性菌は赤色に染め分けられます。 これは、細菌の細胞の一番外側の細胞壁の構造に大きな違いがあります。 グラム陰性菌の細胞壁は、グラム陽性菌よりも構造がはるかに複雑で、それ自体が内毒素であり 毒性や抗原性を持っています。 う蝕の原因菌であるミュータンス菌は、グラム陽性菌であり歯周病菌は、ほとんどがグラム陰性菌です。 細菌は、グラム染色性と形態を組み合わせて表現するのが慣例で、例えば、レンサ球菌は、 グラム陽性球菌として、大腸菌は、グラム陰性桿菌として分類されます。
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好気性菌と嫌気性菌について |
好気性と嫌気性の違いは、細菌の生育環境を限定するファクターであり、病原細菌においては 生体内での発育部位、すなわち感染臓器などの違いとして表れます。 育成に酸素を好む細菌を好気性菌、酸素がない環境でも育成可能な細菌を嫌気性菌、とくに 有酸素環境では死滅したり発育できないものを偏性嫌気生菌、酸素があっても無くても増殖可能な 細菌を通性嫌気性菌と言っています。 口腔内では歯肉溝の深部などにポルフィロモナス属、プレボテラ属、フゾバクテリア属など歯周病 との関わりのある偏性嫌気性菌が多数存在します。
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う蝕を引き起こす細菌 |
う蝕は、歯面に頑固に付着したバイオフィルムであるプラーク細菌の酸産生による歯面の脱灰を 始まりとする感染症です。主な病原菌は、ミュータンスレンサ球菌で、その他にもレンサ球菌、 放線菌群、さらには乳酸桿菌なども関わっています。
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エナメル質の平滑面 |
ミュータンスレンサ球菌が中心的な役割を果たしています。菌体表層の繊毛様物質による付着と スクロースから生成された粘着性の不溶性グルカンの作用で、歯の平滑面においても強固に付着し 容易に脱落しなくなります。糖を分解しておもに乳酸を産生しバイオフィルムの中に蓄積し 歯質を脱灰して、う蝕を発生させます。
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小窩裂溝 |
溝や凹窩では、唾液や咀嚼による自浄作用が期待できないため、強い付着能がなくても口腔内細菌が 定着できます。ミュータンスレンサ球菌の他に各種の口腔レンサ球菌、乳酸桿菌、放線菌などがう蝕の発生 に関わっています。 乳酸桿菌は平滑面では定着することができませんが、溝や凹窩では住み着いてう蝕の原因となります。 Streptococcus sanguinis や放線菌群なども酸を生産してう蝕の原因になります。
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根面う蝕 |
根面う蝕は、根面露出によりエナメル質と根面表層のセメント質の境目より始まり、横に広がるように 進むことが多いです。ミュータンスレンサ球菌が多く、S.sanguinisやActinomyces naeslundii も高率 に検出されます。進行した根面う蝕では、乳酸桿菌も存在します。
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ミュータンスレンサ球菌の高いう蝕誘発能 |
定着は、微生物が病原性を発揮するための第一歩です。 エナメル質の表面には、唾液の糖たんぱく質が速やかに吸着して、ペリクルという薄い膜が作られます。 ペリクルは、歯を保護する機能を持っていますが、ペリクルの特定成分は、細菌の付着するための レセプター(受容器)となり、そこに合う付着因子をもった細菌が、誘導され付着します。 レセプターと結合する構造物を付着因子または、定着因子といいますが、 ミュータンスレンサ球菌の菌体表層にあるさまざまなタンパク成分のいくつかは、付着因子となり歯面 への初期の付着に関与します。 ペリクルの中の唾液タンパクと結合することによって、平滑面(平らな面)においても強固に付着します。 ミュータンスレンサ球菌の菌体表層に線毛様構造物があり、これらも定着に大きな役割を果たしてい ます。 さらに、菌体外に酵素を産生し、食物に含まれるスクロース(蔗糖)から粘着性の不溶性 グルカンを産生し、歯の表面に強固に粘着します。 高い酸産生能と耐酸性があります。 菌体内外の各種の糖(多糖体を含む)を分解し、乳酸を始めとする酸を産生し続けることで臨界pH(5.5) 以下の状態を作り、エナメル質の脱灰を生じさせます。 ミュータンスレンサ球菌は、脱灰を起こす臨界pH以下でも増殖できる性質(耐酸性)を持ちます。 これは、他のレンサ球菌にはない特徴です。 通常は、ミュータンスレンサ球菌は数の多い菌群ではなく、スクロースの過剰摂取などをきっかけにして 増加した結果、う蝕を引き起こします。
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歯周病を引き起こす細菌 |
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グラム陰性偏性嫌気性桿菌の仲間 |
Porphyromonas gingivalis (ポルフィロモナス・ギンギバリス) :最も代表的な歯周病菌です。 Prevotella intermedia (プレボテラ・インターメディア) :発育に女性ホルモンを利用するという報告も あり、 妊娠性歯肉炎や思春期性歯肉炎との 関連も示唆されています。 Tannerella forsythia(タンネレラ・フォーサイシア) :菌の両端は細く尖って全体は紡錘状をしています。 慢性歯周炎の特に進行期の病巣いわゆる活動部位 から多く分離されます。トリプシン様酵素を産生。 Fusobacterium nucleatum(フゾバクテリウム・ヌクレアタム):長さ10〜20μmのほぼ線状、両端が尖って 中心部がやや太いことから紡錘菌といわれています。 |
口腔スピロヘータの仲間 |
Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコラ):コイル状をしているラセン菌です。回転運動をします。 免疫抑制因子は非常に強く、他の菌の免疫応答も 抑えてしまう結果歯周病細菌が爆発的に増加します。
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歯周炎の歯周ポケット内に増える運動性菌群 |
Campylobacter rectus(カンピロバクター・レクタス):菌端に1本の鞭毛を持った運動性のグラム陰性菌です。 食作用に抵抗性物質を持っています。 Selenomonas sputigena(セレノモナス・スプチゲナ):偏性嫌気性です。ラセン菌の様にみえ、活発な運動性 があります。侵襲性歯周炎に関与か。 などが主な歯周病原因菌と言われています。 |
歯周病菌がどの様に歯周病を起こすのか |
歯周病の発症機構には、細菌の持っている病原因子だけでなく、宿主側の免疫応答が歯周病の進行に きわめて重要な役割を果たしています。宿主の総合的な抵抗力と微生物の持っている病原性(毒力)の 力関係によって決まります。 |
Porphyromonas gingivalis (ポルフィロモナス・ギンギバリス)の持っている病原性は |
@菌体最表層にある線毛様の構造は、組織への強い付着性を有する。 A食細胞からの食作用を免れて組織内で増殖する能力がある。 Bシステインプロテアーゼを産生し様々な生体防御機構を撹乱させ、組織を傷害する。 Cコラゲナーゼは、結合組織に作用して病巣を拡大する。 D組織破壊を起こす内毒素(グラム陰性菌の細胞壁を構成しているリポ多糖(LPS))を持っている。 |
Prevotella intermedia (プレボテラ・インターメディア)の持っている病原性は |
@菌体最表層には線毛構造があり、組織への付着性を有する。 A菌体外に糖を産生することによって食作用を免れている。 B捕体や抗体を構成するタンパクを分解する酵素(プロテアーゼ)を産生し食作用を免れる。 Cコラゲナーゼなどの加水分解酵素を産生し、結合組織に作用して病巣を拡大する。 D組織破壊を起こす内毒素(グラム陰性菌の細胞壁を構成しているリポ多糖(LPS))を持っている。
微生物が感染し発病するには、定着し、食作用を回避して組織の中で増殖しなければなりません。 そして、毒素や酵素を産生して宿主を傷害します。これに対して生体は、自然免疫系や獲得免疫系で 感染の拡大を防ごうとします。歯周病においても、感染の拡大を防ぎ切れなかったり、 慢性化したりする場合、宿主側の免疫応答がきわめて重要になります。
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歯周病は、おもに歯肉溝および歯周ポケット内細菌の感染によります。 |
健康な歯肉の場合 |
臨床的に健康であると考えられる歯肉局所の細菌叢は、グラム陽性菌の割合が多く、およそ 60%〜90%を占めます。 一方で、グラム陰性菌は、比較的少なく、運動性桿菌やスピロヘータはほとんど見られません。
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歯垢性歯肉炎いわゆる歯肉炎の場合 |
炎症症状が歯肉に限局してみられ、歯垢除去により症状が改善するという臨床的特徴を持ちます。 ポケットの形成や歯肉溝浸出液の増加が認められます。 慢性の歯肉炎局所には、グラム陽性球菌や桿菌ならびにグラム陰性球菌が多く見られます。 炎症が進行すると複雑になり、線状菌、運動性小桿菌、やスピロヘータが増加するとともに 偏性嫌気性菌も見られるようになります。
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慢性歯周炎の場合 |
歯周ポケット内の細菌数が増加し、グラム陰性桿菌、運動性桿菌、放線菌、らせん状菌の比率が 増加して来ます。特にグラム陰性の偏性嫌気性菌が増加するとともに、全菌数に占める スピロヘータの割合が高くなります。 菌種としては、ポルフィロモナスギンギバリス、プレボテラインターメディア、タンネレラフォサイシア、フゾバクテリア属 などが挙げられます。
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歯肉溝および歯周ポケット内での生体防御 |
歯周ポケット内細菌の増殖または、歯周病の進行に伴いポケット内の滲出液は増加し、成分なども 変化します。 炎症傾向が強くなると言っても良いでしょう。 歯肉辺縁付近および歯肉溝には、血清成分に由来すると考えられる歯肉溝滲出液が存在し、歯肉溝 領域における感染防御に役立っています。 好中球やマクロファージなどの免疫担当細胞が、抗体や捕体とともに生体防御反応を担っています。 歯肉炎や歯周炎の進行とともに抗体(IgG)濃度は上昇し、歯周病原細菌に対する抗体のみならず ミュータンスレンサ球菌群に対する特異抗体も検出されるようになります。 炎症反応や免疫反応に伴う種々の炎症性サイトカインも産生されます。サイトカインは、免疫担当細胞 などの細胞の持っている作用(生理活性)を発揮させる因子となる液性の物質で、細胞がサイトカインを 産生することにより、次々と細胞から次の細胞へと反応(生理活性)が進んで行きます。 細胞同士のコミュニケーションを司っていると言って良いでしょう。 しかしながら、 大量に産生されると歯周組織破壊や骨破壊などに直接および間接に関与する様になります。
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歯周組織における生体防御 |
歯肉組織に接している歯周ポケット内細菌は、歯肉組織に刺激を与え続け、歯肉の炎症を惹起し 結合の弱った歯肉の細胞間から進入します。 毛細血管の拡張が起こり血管透過性が亢進し、 白血球が歯肉組織内に遊走して来ます。 そして、 免疫担当細胞の好中球やマクロファージが炎症部位に集積し、感染微生物との戦いが起こります。 マクロファージは、異物進入のシグナルをリンパ球に伝え、Tリンパ球は異物攻撃に参加し、 Bリンパ球は、形質細胞にと分化し大量の抗体を産生します。 この様に、歯肉組織は、毛細血管拡張による発赤や腫脹を呈し、戦いの場には好中球、リンパ球、 マクロファージ、形質細胞などの炎症性細胞の浸潤がおこり、戦場において、それらが産生する サイトカインや細菌の産生する組織破壊性の酵素により、さらに戦場が荒れ果て、歯肉線維の破壊、 歯根膜やセメント質の破壊や歯槽骨の吸収が起こります。 あたかも、歯槽骨は炎症部位から逃げるようにとうざかります。 歯面にくっ付いていた歯肉上皮は、歯面から剥がれ深部に向かって増殖し歯周ポケットが形成されます。 こうして、歯肉は退縮し、歯根が露出し徐々に動揺が大きくなり、歯周病は進行していきます。 今まで感染症は、正常な抵抗力をもった宿主を中心に考えられてきましたが、高齢者や生体防御能力 が低下した有病者(易感染性宿主)が増加してきた現状では、年齢や抵抗力を考えた口腔ケアーが 必要になって来ていると思われます。
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